医療薬剤学研究室

崇城大学

研究内容

実験研究:医薬品の抗酸化作用解析を基盤とした包括的腎臓病治療への応用

慢性腎臓病(CKD)はQOLの低下や予後不良となる難治性疾患である上、末期腎不全になると透析が導入される結果、医療費が急増するため、CKD対策は全世界のヘルスケアに共通した緊急かつ深刻な問題として重要視されるようになってきた。CKDに関する医療費を削減しながら治療成績を向上させ透析導入を抑制するためには、腎機能を改善するような画期的な新薬の開発が切望されるものの、代表的なアンメットメディカルニーズとして位置付けられるようにCKD治療薬の開発は鈍磨している。この原因は、腎疾患の病態が多様である上、それらの病態生理が十分解明されていないためである。近年、これらに共通する発症・進展因子として酸化ストレスが注目されるようになってきた。事実、抗酸化剤のバルドキソロンメチルは糖尿性腎症患者に対して初めて腎機能を改善することが大規模な第二相臨床試験で実証された。残念ながら、本剤の場合、第三相試験で毒性が問題となり開発が中断されたが(本邦で新たに開始)、CKD治療における抗酸化剤の有用性を示した点で高く評価されている。このようにCKD治療では抗酸化剤が有望視されているものの、現時点では腎疾患に適応可能な薬剤は存在しない。

そこで、より有効な治療法を育薬の観点から見出すべく、病態発症・進展因子として注目されている酸化ストレスに焦点を絞り、既存医薬品のプレイオトロピックな効果としての抗酸化作用をin vitro、およびin vivoの実験系により探索することで、抗酸化療法がCKDの進行抑制につながることを明らかにしてきた。この”一人二役”な薬理活性を最大限に活用することは、治療効果の向上はもとより、医療経済的な貢献も大いに期待できる。加えて、これまでの研究成果から、プレイオトロピックな抗酸化作用の機序としては、①薬理作用関連型(代表例:オルメサルタン[1-3])、②化学構造関連型(代表例:ベンズブロマロン[4,5])に加え、新たなタイプの③代謝活性型(代表例:アセトアミノフェン[6])を加味した3つに大別できることを見出した。これまでプロドラッグのように、目的とする薬効を代謝により発揮することは多くの医薬品の開発で活用されてきたが、アセトアミノフェンのような代謝変換によるプレイオトロピック効果の獲得は非常にユニークな現象であり、薬効機序の全貌を明らかにする上での新たな着眼点になり得るものと考えている。

現在、これらの医薬品の研究を継続するとともに、マルチチロシンキナーゼ阻害薬であるスニチニブとARBの併用による腎細胞癌の効果増強および副作用軽減の最適化、トロンボモデュリンαやノイロトロピンの抗酸化作用解析を展開中である。また、最近注目されている臓器連関に着目し、腸腎連関のモジュレーターとしてのラクツロースの可能性を探索している。