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ハブ毒を科学する

 クサリヘビ科マムシ亜科に属するハブ(Protobothrops flavoviridis)は、日本の南西諸島(奄美大島、徳之島、沖縄)に棲息する毒ヘビである。その毒は生理活性成分の宝庫であり、研究分野は生化学、分子生物学、薬学、ゲノムサイエンスと多岐にわたっている。

1) ハブ毒中の生理活性成分の構造と機能解明

 古くからハブやマムシは出血毒、コブラは神経毒と言われてきた。しかしこれまでの研究からハブ毒にも神経毒成分が存在し、他にも免疫系に関与する補体活性化因子等、極めて多種多様な生理活性成分が存在することが明らかとなっている。我々は、個々の成分を毒から精製してそれらの構造と機能を明らかにし、ハブ毒中の未知な生理活性成分の探索を行っている。

2) 毒成分遺伝子の加速進化の分子機構の解明

 ハブ毒の主要な成分であるホスホリパーゼA2、金属プロテアーゼ、セリンプロテアーゼはいずれもアイソザイム系を構成している。これまでの研究から、アイソザイム遺伝子は加速進化によりタンパク質翻訳領域に点変異に基づく塩基置換を蓄積し、様々な生理機能を持つアイソザイムを作り出してきたことが明らかとなっている。我々は、点変異の蓄積にerror prone(誤りがちな)DNAポリメラーゼが関与していると考え、分子機構の解明を目指して研究を進めている。

3) 毒腺組織特異的な発現機構の解明

 ハブ毒成分は、毒腺組織特異的に発現していることも大きな特徴であり、その発現機構を明らかにするため、特に転写調節に注目して分子生物学的研究を行っている。

4) ハブゲノムプロジェクト(べノミクス)

 将来的なハブゲノムプロジェクトを目指し、我々の研究室ではハブ毒腺の完全長cDNAをもちいたトランスクリプトミクス、また毒成分の島間比較プロテオミクスを行っている。

5) 効果的なハブ咬傷治療に関する研究

 ハブ咬傷時に用いる抗血清は出血には効果的であるが、筋壊死や激痛などは緩和されない。我々はより効果的な治療薬や治療法を開発するため、化血研や東大医科研、東北大のグループと共同研究を行っている。

抗体医薬品の改良を目指したタンパク質工学的研究 →詳細はこちら

 現在、抗体医薬品が盛んに開発され、癌などの難治性疾患に適応されている。我々は生産性が高く、医薬品としても承認されている抗体フラグメント(Fab)に注目して、以下の研究を行っている。

1) 抗体医薬品のFab化及び酵母による産生

「抗体医薬品のFab部分を遺伝子工学的に、酵母を用いて作りだす」
 Fabは、生産コストが安価で培養が容易な大腸菌や酵母などでの生産が原理的に可能である。しかしFabといえど、H鎖とL鎖からなるヘテロ2量体であるため大腸菌や酵母の生産系を確立するのは容易ではない。そこで抗体医薬品について、Fabの発現系を構築させ酵母を用いて大量に調製する事を目的としている。

2) Fabにおける抗体医薬品の劣化の研究

「Fabのどの部分が壊れやすいのかを調べる」
 抗体医薬品のFabを用いて定常領域でおこる劣化部位を特定し、アミノ酸変異を導入して劣化の影響を防ぐ事を目的としている。

3) 抗体医薬Fabのアミノ酸変異導入による改変

「Fabの壊れやすい部分のアミノ酸を変えて、より安定なFabを作り出し、抗体医薬への応用を目指す」
 抗体医薬品のFabについてアミノ酸変異を行い、常温でも長期保存が可能になるような、熱に安定なFabへと改変させることを目的としている。