研究内容



 


研究概要

 

■研究テーマ
 (T)高分子制癌剤と癌のミサイル療法
 (U)活性酸素とがん予防、感染による発がん

今日的に云えば、DDSとかナノメディシンといわれる分野の研究を行っている。在来の薬物分子は比較的小さい(1000Da以下)分子サイズ であったが、我々は薬物分子サイズを数万以上の高分子型の薬物にすることにより新しい道を拓いてきた。その結果、このような薬物の特長は、長時間作動性となること、癌組織へのミサイル療法となること。その原理は我々の発見したEPR効果に基づいている。さらに、このような薬物は患者にやさしいQOL重視の薬物となることである。毎日の注射が数週間に一回でよくなるなどである。もう一つの研究分野は感染や炎症局所で生ずる活性酸素(ラジカル)による発癌である。この研究から抗ラジカル物質が癌予防のキーポイントであることを証明している。

 

前田教授は薬物送達理論に基づく新しい抗がん剤の臨床開発研究が高く評価され、英国王立薬学会2007年度Life Time Achievement Awardを受賞した。
受賞講演は"EPR-effect, and its mechanism , and further extension towards more tumor selective cancer therapy."というタイトルで行われた。


 


 ・1986年に前田教授らにより提唱された。がん組織や炎症部位に高分子化合物が集積する現象。 腫瘍組織に形成された新生血管は正常組織のものと異なり、形態的な異常が見られ、種々の血管透過性因子によって、血管透過性が亢進している。また腫瘍組織内はリンパ系が未発達なため、リンパを介した薬物の排泄がなされない。そのため、高分子化合物は腫瘍組織に漏出しやすく、腫瘍組織に蓄積しやすい。今日の受動的腫瘍ターゲッティングにおけるゴールドスタンダードとなっている。

EPR効果の概略図

EPR効果に関する論文引用数


 

T.がんに選択的な戦略
   
EPR効果に基ずく高分子制癌剤

ZnPP

DAO

ZnPP(亜鉛プロトポルフィリン)


PEG-ZnPP

 ZnPPはプロトポルフィリンに2価の亜鉛が配位した構造を持つ。その構造はヘムに類似しており、ヘム代謝酵素の一つであるHO-1 (ヘム酸化酵素)に結合、その機能を阻害する。通常、HO-1は脾臓での発現が高く、ヘムの代謝に関与しているが、HO-1は腫瘍細胞での発現も高く、活性酸素種から腫瘍細胞を保護する役割を果たしている。HO-1の阻害により、腫瘍細胞は活性酸素に対して脆弱になるため、HO-1阻害物質であるZnPPは抗腫瘍薬としての応用が期待される。

 本研究室ではZnPPにポリエチレングリコール(PEG)を結合した、PEG-ZnPPを開発し た。PEG-ZnPPはZnPPに比べ高い水溶性を示し、生体内で高分子薬として挙動する。すなわち、難溶性であるZnPPに高い水溶性を付加し、EPR効果による腫瘍特異的なターゲッティングを可能にした。現在までにPEG-ZnPP単剤による抗腫瘍効果を確認し、さらに他の抗癌薬との併用効果についても現在検討中である。また光照射による活性酸素(一重項酸素)の生成を利用した光線力学的療法に関しての検討も行っている。

 

D-アミノ酸酸化酵素

 D-アミノ酸酸化酵素(DAOは分子量約39,000Daのタンパク質であり、補酵素としてFAD(Flavin adenine dinucleotide)を持つ。D-アミノ酸の酸化的脱アミノ化を触媒し、過酸化水素(H2O2)を発生させる。本研究室では、ポリエチレングリコール(PEG)をDAOに結合させた「PEG-DAO」を開発し、DAOをがん部位に集積させ、がん部位特異的にH2O2を発生させるというストラテジーのもと研究を行っている。PEG-DAOnative DAOに比べ血中半減期の大幅な延長(130min vs 30min)、優れた腫瘍集積性(5倍)を示した。現在はPEG-DAOの臨床応用を踏まえ、種々の抗腫瘍剤との併用療法およびPEG-DAO療法の最適化に関して検討を行っている。

 

U.新しいミセル剤
   
当研究室で発見したスチレンマレイン酸コポリマー(SMA)を用いたミセル化剤

SMA-ZnPP SMA-NCS SMA-ACR
SMA-AHPP SMA-RB SMA-Hemin