Research

研究テーマ

 環状オリゴ糖であるシクロデキストリン(CD)はさまざまな薬物分子を疎水空洞内へ取り込んで包接複合体を形成することが知られています。私たちは、このCDの超分子特性に着目して、医薬品製剤や機能性食品の物性の制御を行っています。また、CDと機能性添加剤を組み合わせることで、薬物送達システム (DDS) 用の新しい機能性素材を構築し、医療応用する研究も展開しています。安全で使いやすく、患者に優しい医薬品製剤の設計を目指して、下記のような研究に取り組んでいます。

01多機能性シクロデキストリンの製剤素材としての有効利用

多機能性シクロデキストリンの製剤素材としての有効利用

 シクロデキストリン(CD)は機能性素材として古くから注目され、難水溶性薬物の可溶化や安定性の改善、放出制御、バイオアベイラビリティの改善、苦味・悪臭および局所刺激性の軽減など様々な用途で利用されています。CDと薬物が包接複合体を形成すると、

  1. 薬物の溶解度が増大し、過飽和状態が安定化する。
  2. 分子量の増加に伴い薬物の拡散速度が低下し、会合(凝集)が抑制される。
  3. 固/液界面においてゲスト分子の配向性や相互作用に異方性が生じ、結晶成長挙動を制御する。

ことが考えられます。私たちは、これらCDの包接特性を利用して、製剤特性に優れた薬物結晶の調製が可能なことを明らかにしてきました。最近では、異なる種類のCDを組み合わせる、またはCDと添加剤を組み合わせて用いることで、薬物の非晶質状態や過飽和溶液を安定化する研究に取り組んでいます。優れた物性を有する固体医薬品・機能性食品の開発におけるCDの新たな利用法について探求しています。

02機能性薬物担体としての刺激応答性ヒドロゲルの開発

機能性薬物担体としての刺激応答性ヒドロゲルの開発

 水溶性高分子鎖同士が架橋により 3 次元の網目構造を形成した分子集合体をヒドロゲルといいます。近年、ヒドロゲルの基となる疎水化高分子溶液の粘度を、CDの包接特性を利用して制御する例が報告されています。これは CD が高分子の疎水部を包接することで、高分子同士の会合が抑制され、溶液の粘度が低下する現象を利用しています。CDによる包接現象は、一般的にはエンタルピー支配であり、低温では包接が起こりやすく、高温になると解離しやすくなります。このようなCD包接の温度依存性を利用して、室温ではゾル状態(液体)で、体温で温められることでゲル化する温度応答性ゲル基剤を開発し、点眼剤や注射剤の担体として利用する研究を行ってきました。

 CDは構成グルコースの数の違いにより、α-CD、β-CD、γ-CDが存在し、それぞれ空洞サイズが異なるため、異なる分子認識能を示します。CD・薬物・高分子間の相互作用を明らかにし、適切に制御・製剤設計することでさまざまな薬物に応用可能な温度応答性の薬物持続放出担体として利用する研究を展開しています。

03ナノカーボン類の医薬分野への有効利用

ナノカーボン類の医薬分野への有効利用

 近年,フラーレンやカーボンナノチューブ,グラフェンに代表される多くのナノカーボン類が開発され,医療応用が検討されています。フラーレンは炭素原子が球状のネットワーク構造をしている化合物の総称であり,光照射により活性酸素を生成する(光増感)効果や抗酸化効果を有することが知られており,特にフラーレンの抗酸化効果は美容を目的とした化粧品に利用され,3000品以上のフラーレン配合コスメが市販されています。また,これらナノカーボン類の疎水性,分子サイズを利用した遺伝子あるいは薬物キャリアの開発や生体イメージングへの応用も盛んに研究されています。しかし,ナノカーボン類は極めて水への溶解性が低く,生体への応用に際し,その溶解性を改善する工夫が必要です。

 私たちは、これまでに生体適合性に優れるCDを用いて,ナノカーボン類(C60,水酸化C60,C70,グラフェン)を親水性ナノ粒子として高濃度に可溶化する技術を確立し,がん光線力学療法や酸化ストレス性疾患の治療,慢性腎不全の進行抑制などナノカーボン類の医療応用に関する研究を展開してきました。さらに,最近ではカーボンナノ粒子と機能性ヒドロゲルを組み合わせた新規ゲル基剤の開発を進めています。多様化するモダリティの中で革新的医薬品としてカーボンナノ粒子が注目される未来を目指して研究に取り組んでいます。