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SOJO UNIV.

研究課題(概要)theme

【カスケード反応の開拓と効率的分子骨格合成】

 カスケード反応は、周辺環状反応のような選択的反応を連続的かつ適切に配置することによって、各段階の生成物や中間体を単離することなく、one-pot で効率的に分子骨格を構築することが可能な合成手法である。我々はこれまで次のような「反応の組み合わせ」を持つカスケード反応を研究し報告を重ねてきた。
● 分子間環化付加反応 → キレトロピー反応 → 分子内熱環化付加反応
● 分子間環化付加反応 → シグマトロピー転位反応 → 分子内光環化付加反応
● [3,3]-シグマトロピー転位反応 → レトロエン反応
● [3,3]-シグマトロピー転位反応 → レトロエン反応 → 分子内環化付加反応
● 1,4-付加反応 → [1,5]-シグマトロピー転位反応 → 分子内環化反応 → 脱水素芳香化反応
● 1,4-付加反応 → エン反応(分子内環化反応)

【電子欠如型シクロペンタジエノン類のカスケード反応】

 電子欠如型 cyclopentadienone 類と diallylamine との反応により、one-pot でシクロペンテノン縮環イソインドール誘導体が生成することを見出した。


その後、三重結合を有する一級アミン(prop-2-yn-1-amines)を用いることにより、上記四環性化合物とともに二環性化合物が高収率で得られることが判明した。反応速度論、分子軌道法による遷移状態計算により、以下のカスケード反応機構を推定した。すなわち、最初に cyclopentadienoen に対するアミンの 1,4-付加が Diels-Alder反応より先んじてに起き、生成する付加体が分子内エン反応を起こせば二環性化合物を、1,5-シグマトロピー転位を経て分子内 aromatic Diels-Alder 反応を起こせば四環性化合物をそれぞれ与えると考えられた。


 一方、電子欠如型 cyclopentadienone 類と不飽和アルコールとの反応においては、通常 多重結合が反応し、[4+2] 付加体を与える。ところが DABCO(1,4-diazabicyclo[2.2.2]octane)を触媒として用いることにより、三重結合を有するアルコール(prop-2-yn-1-ols)においても上記アミン類と同様の反応が生起することが判明した。


 さらに、 三重結合を有するケトン類(but-3-yn-2-ones)においても DABCO 存在下、同様の反応が生起することを見出した。DABCO によって生成したエノラートの 1,4-付加後、連続する [1,5]→[3,3]-シグマトロピー転位と、それに続くエン反応または分子内 Diels-Alder 反応を経由して、対応する二環性化合物および四環性化合物を与えると考えられた。有機塩基触媒を用いることで、非常に緩和な条件下で炭素ー炭素結合の生成が実現できたことは興味深い。


【シクロペンタジエノン類の連続ペリ環状反応】

 Cyclopentadienone 類は非共役ジエン類と反応して [4+2] 付加体を与える。付加体は加熱により脱COを起こし、ジエンを与えると同時に分子内[4+2]-付加を惹起し、かご型化合物を与える。1,5-シクロオクタジエンとの反応で得られるイソツイステン化合物の単結晶X線解析において、分子内 H/H および C/C short contact の存在が確認され、赤外線吸収スペクトルおよび核磁気共鳴スペクトルとの関連が認められた。


 また、不飽和中員環化合物との反応においては、cyclopentadienone 類は [4+6] および [4+2] 付加体を与える。これらの付加体はシグマトロピー転位により各種の二次成績体へ変化する。これまでに殆ど検討されていない非対称型の cyclopentadienone を合成、周辺選択性、配向選択性について検討を行い、フロンティア軌道論の価値を改めて認識する結果を得た。


【不飽和キサンテート類の連続ペリ環状反応】

 不飽和アルコール類のジチオ炭酸エステル類(不飽和キサンテート類)は、加熱により容易にジチオール炭酸エステル類へと [3,3]-シグマトロピー転位を起こす。本反応は立体選択的硫黄原子導入法(不斉を含む)として有用性が高く、含硫黄化合物の合成の重要な鍵工程として利用されている。さらに、転位体を高温あるいはルイス酸触媒存在下で加熱すると、レトロエン反応(チオカルボニルの脱離を伴う allyl転位)が惹起し、不飽和スルフィド類を与える。本反応をジエンアルコール類に適用することで、分子内Diels-Alder反応が起こり、三段階のカスケード反応を経て環状スルフィド類(イソベンゾチオフェン類)を単一操作(one-pot 合成)で与える。本反応の生起は、allyl 転位を伴うチオン–チオール転位およびレトロエン反応を可能にする硫黄原子の特性に起因する。


【回転異性体の合成と単離および分子軌道計算による束縛回転の評価】

 回転異性体(atrop isomer)は核磁気共鳴スペクトル法の進歩により、その存在が確認されるようになった。しかしながら、常温で安定に単離された例は非常に少ない。近年、回転異性体を芳香環間等の弱い相互作用の解析に利用する研究が注目されている。我々は、3H-インドールの研究の過程で、2位に嵩高い置換基を持った 1-acyl-2-aryl-3,3-dimethylindoline 類において回転異性体(配座異性体)が存在することを発見した。C(sp3)-N(sp2) および C(sp3)-C(sp2) 系において、それぞれ一対の異性体を単離し、単結晶X線解析により構造の詳細を明らかにした。さらに、反応速度論的検討および分子軌道計算により、束縛回転の機構および分子内弱相互作用を解析した。



【結晶場における分子認識とその機構解明】

 芳香族が縮環した置換シクロペンタジエノンであるフェンサイクロンと各種ジエノフィルとの [4+2]π 環化付加体の中に、再結晶の際に溶媒分子を取り込んて結晶格子を構築し、一定の化学量論比を持つ複合体を形成する(クラスレート・ホスト分子として機能)ものがあることを見い出した。これらの化合物では、CH/π や CH/O 型水素結合を含む "弱い" 分子間相互作用によって結晶格子が構築され、ベンゼンのような芳香族分子をはじめとしてゲスト分子を強固に包接する。本骨格を新規クラスレートモデルとして構造修飾を行い、溶媒包接能との関連やゲスト認識に介在する種々の相互作用について系統的な検討を行った。